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「なんであの人、いつも私にだけ意地悪をしてくるの…?」
「私、なにか悪いことしたのかな…」
そんなふうに、自分を責めてしまった経験はありませんか?
理不尽な言葉、心ない態度、見下すような言動。
誰にでも、思い当たる場面があると思います。
今回は、「わざと人を傷つける人は、どんな心の状態なのか?」
そして、どうすれば傷つかずに済むのか?
心理学的な視点から、やさしく・わかりやすくお話ししていきます。
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◆ わざと意地悪をする人の「心の中」には何がある?
意地悪な人は、なぜ他人を不快にさせるようなことをわざわざするのでしょうか?
理由は簡単にはひとつに絞れませんが、深く見ていくと、そこには**「不安」「自信のなさ」「孤独」**といった感情が隠れていることが多いのです。
◉ よくある例①:同僚からの小さな嫌味
たとえば、あなたが頑張って仕事をして褒められたあとに、同僚がこんなことを言ってきたとします。
「誰にでも出来そうだよねー」
「上司の機嫌がよかったんじゃない?」
あなたの努力を認めずに、あえて水を差すような言葉。
これは、相手が「自分より評価されている」と感じて、不安になっているサインかもしれません。
◉ よくある例②:パートナーの急な無視や冷たい言葉
自分に心当たりがないのに
「なんかずっと機嫌悪いな…」と思っていたら、急にそっけない態度。
「別に…」「勝手にすれば?」という冷たい返答や無視。
相手の心の中に、「見捨てられるかもしれない」「どうせ自分なんて愛されない」という不安があると、その痛みを自分の中で抱えることができず、無意識のうちにあなたにぶつけてしまうことがあります。
ときには、「そんなことで?」と思うような些細な出来事を理由に、傷ついたと主張してくることも。
でもそれは、本当の理由ではなく、**あなたを困らせたい・揺さぶりたいという“お試し行動”**である場合があるのです。
相手にとっては、「この人は本当に自分のそばにいてくれるのか?」
「どこまで自分を受け入れてくれるのか?」を確かめたい、心の奥の不安からくる行動かもしれません。
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◆ 意地悪の“ほんとうの目的”とは?
こうした意地悪の裏には、「自分を守りたい」という強い欲求があります。
他人を下げることで、自分の価値を“守ろう”としているのです。
たとえば…
• 相手を否定することで、自分のほうが「上」と感じられる
• あなたの反応(傷つく、動揺する)を見て、「自分が影響力を持っている」と思える
• あなたに罪悪感や不安を与えることで、関係をコントロールできると信じている
これらは無意識に行われることが多く、本人も「なぜ意地悪をしてしまうのか」に気づいていないことがよくあります。
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◆ 負の感情を他人に押し付ける投影同一視とは?
ここで、「投影同一視(とうえいどういつし)」という心理学の考え方を紹介します。
投影同一視(とうえいどういつし)ってなに?
ちょっと難しそうな言葉ですが、投影同一視(projective identification)は、心理学(とくに精神分析)でよく使われる考え方です。
ざっくり言うと…
自分の中にある「認めたくない気持ち」や「受け入れがたい一面」を、他人に押しつけるだけでなく、実際にその通りに相手が振る舞うように仕向けてしまう、無意識のクセのことです。
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たとえば、どういうこと?
🧠 例1:
Aさんが「自分は弱い存在だ」と心のどこかで思っているけれど、それを認めたくないとします。
するとAさんは、知らないうちにその“弱さ”を他人に押しつけてしまい、
相手(Bさん)が「自分がしっかりしなきゃ」「守ってあげなきゃ」と感じるようになっていきます。
そして、Bさんは本当に“しっかり者”として振る舞うようになります。
つまり、Aさんが無意識に「相手をそう仕向けた」ことになるんですね。
「投影」とは、自分の中にあるイヤな感情を、他人の中にあると思い込むことです。
たとえば…
• 本当は自分が怒っているのに、「あの人が怒ってる気がする」と感じてしまう
• 自分が嫉妬しているのに、「あの人が私をねたんでる」と思い込む
こうした思い込みは、無意識で行われるため、自分では気づきにくいのです。
「投影」と「投影同一視」はどう違うの?
よく似ているこの2つ。違いを簡単にまとめると、こうです。
用語 | 説明 | 例 |
投影(プロジェクション) | 自分の気持ちを相手に映し出して「そうに違いない」と思い込む | 実は自分が相手を嫌いなのに、「あの人、私のこと嫌ってる気がする」と思う |
投影同一視 | 相手にその感情を背負わせ、実際にその通りの行動を取らせてしまう | 自分の不安を相手に投げて、相手も不安定になり振り回されるようになる |
なぜそんなことが起こるの?
こうした無意識の働きは、誰にでも起こることです。
とくにこんな背景があるときに、投影同一視が起こりやすくなります。
• 自分の感情を安心して出せる環境がなかった
• 「自分の弱さを見せたら嫌われる」と信じ込んでいる
• 不安やストレスをひとりで抱えきれない
心に傷があると、それを見せたくない気持ちから、他人に押しつけてしまうことがあるのです。

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よくあるシチュエーション
💬 親と子どもの例:
親がいつも「あなたは本当にダメね」と言い続ける。
すると、子どもは「どうせ自分はダメなんだ」と思い込み、本当に自信を失っていくようになります。
💬 恋人同士の例:
パートナーが「どうせ君は僕を裏切るんでしょ」と繰り返し言う。
言われた側は疲れて距離をとるようになり、結果的に関係が壊れてしまう…。
最初は自分の不安だったのに、それが現実になってしまう――。
これが、投影同一視の怖いところなんです。
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健康な関係とどう違うの?
健康な人間関係では、お互いが自分の感情や責任を自分で引き受けることができています。
でも、投影同一視が強く出る関係では、一方が自分の感情を相手に背負わせようとするため、もう一方が疲れたり混乱したりして、関係が不安定になってしまいます。

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◆でも、もしかしたら…自分もやっていない?
ここで少しだけ、自分自身にも目を向けてみましょう。
もしかしたら、あなたが他人の何気ない言葉や態度に強く反応してしまうとき、
そこに自分の中の感情を投影している可能性もあります。
◉ よくある例③:上司の一言に傷つきすぎるとき
たとえば、上司が「もっと丁寧にやって」と言っただけで、
「怒ってる?私、ダメな人間と思われたかも…」と強く落ち込んでしまうとしたら、
その反応の裏に「私はダメな人間かもしれない」という自己否定感が隠れているのかもしれません。
これは、あなたが悪いわけではなく、過去の経験や人間関係の中で身についた「心の反応のクセ」です。
でも、気づくことができれば、そこから抜け出すこともできます。

◆ 攻撃されなくなるためにできること
意地悪をする人の多くは、「不安定な人」「自信がない人」「コントロールしやすそうな人」にターゲットを向けます。
つまり、あなたの心が安定していると、相手の投影が引っかかりにくくなるのです。
◎ 自分を守る考え方
• 「これは私の問題ではなく、あの人の問題」
• 「反応する必要はない。私は私のままでいい」
• 「不安を受け取らないことで、その人の投影の輪から抜けられる」
心の中に**境界線(バウンダリー)**を引くことで、感情を丸ごと背負わずに済みます。
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◆ 受け取り方を変えると、世界が変わる
意地悪な言葉や態度を真正面から受け止めると、私たちは傷つきます。
でも、その“受け取り方”は、自分で選ぶことができるのです。
たとえば…
• 「この人、今すごく不安なんだな。私にぶつけてきてるんだな」
• 「私はその感情を受け取らない。返さない」
• 「この人と私の心は、ちゃんと分けて考えよう」
そんなふうに、ちょっとだけ客観的に、優しく見つめることで、
感情の渦に巻き込まれずに済むようになります。

◆ あなたの心を、あなたが守る
意地悪な人の心の中には、「自分を守りたい」という切実な感情があります。
でも、それに巻き込まれてしまっては、あなたの心が疲れてしまいます。
大切なのは、「自分を守る視点」を持つこと。
そして、「相手の課題と自分の課題を分ける」こと。
もし誰かの言動で傷ついたときは、こんなふうに自分に語りかけてあげてください。
「私は私のままで、大丈夫」
「相手の不安を、私が背負わなくていい」
あなたが自分の心を安定させたとき、
もう誰かの投影の“標的”になることは、少なくなっていくはずです。

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